これから僕が展開する持論は決して「コーラスはリードをとれなくてよい」と言うものだったり「上手いリードがいるのはリードの努力ではなくコーラスのおかげだ!」と言う論旨のものではありません。誤解を招きかねないので予めお断りさせていただいた上で記事を書きたいと思います。
これは完全に僕の持論ですが、アカペラにおいてコーラスは影の立役者であると思っております。お客さんの前で演奏をすれば100人中99人のお客さんはリードを聴きます。バンドの演奏が良かった際にリードボーカルがバンドの顔として褒められるのに対し、コーラスへのフィードバックは辛口になりがちです。
上手くても褒められる事が少なく、音を外したりリズムがとれなかったりすると直に指摘されてしまう、それがアカペラのコーラスだと僕は思います。
結果コーラスの方々って自信を無くしがちだったり、リードボーカルに対してコンプレックスを抱きがちだなと思ったので、今年最後の記事はこれに決めました。
ボイスパーカショニストとして、
素人ながらバンドでアレンジをする立場として、
自信の持てないアカペラコーラスに言いたい事を書いてみたいと思います。
僕がボイスパーカショニストとして思うのは上手いリードほど良い意味で自分勝手な歌を歌います。
往々にして彼/彼女の解釈で曲を組み立てますし、自由にリズムをとったり好き勝手なピッチで歌ったりするリードも居ます。”一般的に”歌がうまいと言われているリードボーカルの方に限って”自分勝手な歌い方”をする方が多いように思えます。
こんな有名な言葉があります。
「光が強ければ強いほど影も濃くなる。」
アカペラコーラスにはまさに同じ事が言えるのではないかな?と思うのです。
少し考えてみます。リードが自由に表現を出来るのはコーラスがそれについて来てくれるからです。リードが自由なピッチやリズムで表現できるのは周りがそれに合わせてくれるからです。
アカペラにおいてリードボーカルの歌が上手く聴こえるのは周りが居るからこそなのです。例えばリードの好き勝手な音程に誰もついて行かなかったらリードボーカルは悪目立ちするだけですよね。もしかしたら聴き手によっては「音程が悪い」と感じるかも知れません。逆もまた然りです。コーラスがリードボーカルをより引き立てることだって出来るのです。
リードボーカルが表現した100を200、300にしてとどけられるのは影で支えるコーラスがいるからなのです。
学生アカペラのレベルですとサークルには「コーラスが専門」と言うメンバーが多々おります。バンドでリードをまわそうとするとそう言った方々は口を揃えて「俺/私がリードとると聴き劣りするから!」と拒否をするのですが、僕はそうではないと思うのです。
確かにバンドの演奏単位で見るとリードをまわす事で聴き劣りする事はあります。でもそれはコーラスをやっていたメンバーがリードにまわったからではないのです。仮にそれが原因だとしてもせいぜい50%ぐらいです。
逆も然りだと思うのです。
リードをやっていたメンバーがコーラスに入るから曲のクオリティが落ちるのだと。例えば普段はコーラスのA君はなんで普段はコーラスをやっていると思いますか?それはA君がバンドの中で一番コーラスが出来るからです。余程の物好きでない限りバンドと言うのはベストな組み合わせでパート編成をなします。その中でリードを一番上手く歌えるのがB君だからB君がリードボーカルをとっているだけ。その中で一番コーラスを上手く歌えるのがA君だからA君がコーラスをしているのです。
別にバンドの中で「コーラス専門」として生きるのは悪い事ではないのです。そしてあなたがリードにまわった時に「リード力が無い」と指摘されてしまうのはあなただけのせいではないのです。
思い出してください。
「光が強く輝くためには濃い影が必要」なのです。
あなたほど影に徹する事の出来るメンバーが他に居ないのも原因の1つです。上手いコーラスは上手い演奏をするための必要条件なのです。アレンジャーとして僕は常にリードもコーラスも「誰がこの音を歌ったら一番栄えるか?」と考えながら作っております。そのパートを任されている以上はそのパートを一番上手く歌えるのはあなたなのです。
偏にコーラスと言ってもいろいろあります。
リードと一緒に盛り上がりを作るのか、それともリードとは相反する感情を歌うのか、曲想をつくり出すのか、コードをしっかりと鳴らすのか、曲のスパイスとなる効果音に徹するのか、声をはってハモらせるのか、しっとり響かせるようにハモらせるのか、等々。
その場の空気を読んで黒子として曲を作るのがアカペラコーラスです。リードが自由に曲を表現する一方で全体の空気を読み、リードに合わせて裏で表現を変えているのがコーラスなのです。決して日のあたる事の無い目立たない、けれども名演には欠く事の出来ない大切な大切なパートです。
「上手いリード」の影には必ず「上手いコーラス」が居ます。
「上手いコーラス」って「上手いリード」に比べ圧倒的にスポットを浴びて褒められる機会が少ないと思いますが、僕はそんな影の立役者を心より尊敬しております。
なにを隠そう「Lead」と言う文字です。
この文字に影が入る事でこうなります。
そして影が入る事で何かしらのトラブルで「Lead」が不在になってしまっても…。
しっかりと「Lead」の輪郭がわかります。
影は主役ではありません。しかし居なくてはならないの存在なのです。
僕はこの影こそがアカペラのコーラスだと思います。
表現力のあるリードの影には必ず表現力のあるコーラスが居ます。
例えばこれ。
僕のオリジナルソングから引用して参りました。
「上ハモ」と呼ばれるもっとも単純なハモリです。
このハモリでは常にリードと同じ音の動き方をしているのでリードと同じ表現が要求されます。リードと同じ感情を歌うのです。HYのAM11:00なんかがこのハモリを登用しております。
それに対してこちらのハモリ。
コーラスの音がコードに則って真っすぐ動いております。そのため常にリードとコーラスの距離は変わります。このハモりではコーラスはリードと距離があくところではリードと相反する感情を表現しているのです。言ってしまうならば、コーラスが表現しているのは心の中にいるもう1人の自分、自分の裏の顔といったところでしょうか。ゴスペラーズさんなんかが良くこのハモリを使っている印象があります。
そして最後に。
ここにはサンプルの楽譜を用意できなかったのですが(僕のオリジナルソングでこのタイプのコーラスワークを使った事が無い為)、アカペラグループのSmooth Aceさんやシンガーソングライターのヒャダインさんがよく使う手法です(※)。リードとコーラスの掛け合いですね!リードの裏の顔を「追っかけ」と言った形でコーラスに歌わせる手法です。ヒャダインさんは良く女声と男声でこれを表現しております。
※参考音源
どうですか?
上手いコーラスって地味に表現力があるんですよ。リードの表現が生きるのはこう言う影の立役者がいるからなのです。そしてこの影こそアカペラの面白い深みでもあります。是非アカペラを聴く際は普段はあまり目立たない黒子に注意しながら聴いてみても楽しいものですよ!
(おわり)
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